香ばしいパンと淹れたての紅茶の匂いに鼻腔をくすぐられるようにして
アリアは目を覚ました。
体をモゾリと動かして寝ぼけ眼で辺りを見回す。
「お目覚めですか、お嬢様?」
銀色のワゴンに朝食の支度をしていた
佐野山がいち早くそれに気付き、
アリアに声を掛ける。
「......は?——え?......わたし」
目の前のいつもの光景に全くもって現実感が伴わない。
いや、追いついてこないといった方が正しいかもしれない。
さっきまで自分がされていた事、そちらの方が明らかに現実離れしていたというのに......
(......されていた?......なに、を......?)
「いかがされましたか、お嬢様?」
そんな
アリアを佐野山が心配そうに見詰めてくる。
「顔色が幾分優れないようですが......」
佐野山は
アリアの調子を確かめる為にグイッと顔を近づけた。
より間近で
アリアの状態を確認しようと思ったのだろう。
顔と顔が触れそうな位に距離を縮められた
アリアはその瞬間身体が強張り、
「なっ、なんでもないからっ!」
と言って
佐野山から離れた。
「?」
何故自分から逃げるのか。
アリアのいつもと違う様子に
佐野山は小さく首を傾げる。
普段の
アリアなら使用人に顔を近付けられようが裸を見られようが、それが必要なものであれば全く意に介さないのだから
佐野山が不思議に思うのも無理からぬ事。
しかし、今の
アリアはこれまで全く意識していなかった
佐野山という存在を妙に意識し始めていた。
いや、正確に言えば
佐野山というよりも”男”という存在を。
アリアは自分の体に意識を走らせた。
それはある種の違和感を探す為であったが、体の何処にも
アリアが考えているような感覚は無かった。
膣に異物を挿入されたかもしれないという違和感を。
だとしたら結論は一つしかない。
あれは......
(夢......だったのかしら......?)
それにしては妙に生々しく淫猥過ぎる夢だった気がする。
佐野山にマッサージを頼み、妙な薬を身体に塗り込まれ、そして無理矢理......
夢の中では確かに挿入され、中出しまで出された。
それがもし現実であったなら、挿入された身体に違和感が無いのはおかしい。
どれだけ事後に身体を拭き清めようともSEXをしたかどうかなど女には感覚として”分かる”からだ。
あれはやはり夢だったのだ。
そう考えるとさっきまでのあの生々しい感覚が既に霧散し始めているのが分かる。
細部がもう思い出せなくなっていた。
ただ夢の残滓として、男に抱かれたという感触だけが残っていた。
「ねぇ
佐野山......私、あなたにマッサージして貰ってた......よね?」
そこまでは記憶として残っている。
だがそこから先が思い出せない。
だから
佐野山に聞いてみるしかなかった。
「えぇ、お嬢様から面白い事をしてくれと頼まれまして、オイルマッサージをして差し上げました。もっとも、お嬢様はマッサージの途中で眠ってしまわれましたが......」
佐野山の答えは
アリアが予想した通りのものだった。
「.........そう」
やはり使用人であるこの男が自分を襲うなどありえない事。
そう考えるのが妥当であり現実的な結論だった。
(
佐野山に無理矢理犯される夢を見るなんて......私欲求不満なのかしら......?)
それを思うと
アリアは頭を抱えずにはいられなかった。
急に頭を抱え出した
アリアに驚いた
佐野山は、心底気遣うような調子で話し掛けた。
「......お嬢様、何か悪い夢でも見られたのでしょうか?もしそうであるなら、朝食を摂った後、気晴らしに散歩にでも行かれてはどうでしょう?」
佐野山のそんな提案に、
「......えぇ、そうするわ」
アリアは素直に首を縦に振った。
朝食を済ませた
アリアは広大な敷地内を散歩していた。
専属の庭師による剪定の行き届いた草花を眺めていると幾分心が落ち着いていくようだった。
ゆったりとした歩調で芝生を踏みしめ、
アリアは思う。
「それにしても、あれは何だったのかしら......?」
マッサージから性的な事を連想した事など無かったが、それでも
佐野山のマッサージが引き金となってあんな夢を見た事は間違いない。
それ程までに今の自分は欲求が溜まっているのだろうかと思ってしまう。
「彼氏でも作った方がいいのかしら......」
溜め息混じりにそう呟いてみる。
学生の頃はそれなりに恋愛と呼べるものをしていたが最近はとんとご無沙汰だった。
ある程度経験してしまうと、「何だこんなものか」という気持ちがどんどん強くなっていった。
それはSEXに対してもそうだった。
前戯もそこそこに自分勝手に腰を振る男性を下から眺めていると百年の恋も醒めてしまう気分であった。
だから心の何処かで恋愛に対して、SEXに対して見切りをつけてしまったのかもしれない。
下らないとまでは言わないものの、無理してする程の事でもない——と。
そうして恋愛から離れれば離れる程、自分の中から女らしさといったものが薄らいでいっているのもまた事実。
しかし、昨夜の夢で自分は女であるという事をハッキリと意識した。
いや、させられてしまった。
それが使用人の
佐野山だという事がまた腹立たしい部分ではあったが、夢である以上
佐野山に非はこれっぽっちもない。
クビはもちろん、責める事すら出来ないのだ。
佐野山の指使い、その動きに従って反応する自分の身体。
中心にアレが入ってきた時の快感と充足感。
あんなSEXは今まで味わった事などなかった。
全方位から責められ、逃げ場を失った快感が身体の中心部に向かって一気に爆発する感覚。
たとえ夢とはいえ、その感覚を思い出すだけで女芯が熱くなりそうだった。
「——ハッ......私ったら——」
気付くとあの夢の事ばかりを考えている。
これでは何の為に気晴らしの散歩をしているか分からない。
アリアは一度軽く頭を振ると、あの夢の残滓を頭から振り払う。
そして深呼吸をして散歩を再開した。
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