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【乃木坂妄想倶楽部】家出少女 第五話「あれ......」



「すっごい人だなっ!」

 駅を降り立ち、辺りを見回してから俺は誰にともなくそう呟いた。

 いや、一応話し掛ける相手は連れて来ている。

 俺のすぐ隣にいる。

 だが、その人間がこの程度の言葉で反応しないであろう事は何となく分かっているのだ。

 だからさっきの台詞は結局の所、俺の独り言という事になるのだろう。

 東京に移り住んでからというもの、かなりの有名所であるにも関わらず俺はこの街にほとんど足を踏み入れた事はない。

 縁もゆかりもない場所だと思っていたからな。

 平日だというのに大通りは雑多な物や人で溢れ返っており、年齢層も非常に若く小中高生らしき姿が多く見受けられた。

 ジャパニーズファッションの最先端でもあるこの街は、街ゆく人達も色とりどり鮮やかな衣服に身を包んでいる。

 いくつものお洒落な店が軒を連ね、テレビで紹介されたからなのかあちらこちらの店先ではズラリと長い行列が出来ている。

 毎日がお祭り騒ぎであるかのようにそこは賑わっていた。

 そう、俺達は今原宿という街に来ていた。

 何の為に来ているかって?

 それは勿論、制服しか着るものが無いというワイルドな女、橋坂奈々未の為に替えの洋服を買いに来ているのだ。

 しかし、いざこの場に立ってみると場違い感が否めない。

 俺はファッションというものにはとんと疎く、ジーパンに白シャツというラフな格好。

 彼女に至っては普通の制服だ。

 つまり流行の先端であるこの場所で俺達は浮きまくりなのだ。

(あぁ、なんかもうちょっと恥ずかしくなってきた......)

 早くもこの街を選んだのは失敗だったかもしれないと俺は思い始めていた。 

 しかし、花の女子高生である彼女に、ユ○クロで適当な服を買って済ませる訳にもいかない。

 いや、別にユ○クロを馬鹿にしている訳ではない。

 むしろ大好きだ。

 マイホームショップだ。そんな言葉があるのかどうかは知らないが。

 では何故原宿などというファッショナブルな街を選んだのか?

 それは俺が男だからだ。

 男には見栄というものがある。

 男はいくつになっても恰好付けたいものなのだ。

 女の子をエスコートする上で少しでも「あっ、この人お洒落じゃん」って思われたいじゃん?

 だがその見栄のせいで俺はこうして自分で自分の首を絞めているのだが......

「下北辺りにすれば良かったか......」

 あそこならもう少し落ち着いて買い物が出来たのに。

 むしろ下北沢をチョイスした方がお洒落だったんじゃねーかという気すらしてきた。

 この街は人という人が流動的に動き回っており、常にザワザワとしている。

 だから全然落ち着かない。

 落ち着かせてたまるかという気概すらこの街から感じる。

 何だか今にもキャリーパミュ○ミュとか出てきそうだ。

 いやもう何なら全員キャリーパミュ○ミュに見える。

 流行のメイクなのか分からないが皆同じ顔に見えるし、奇抜なファッションが多いのだ。

 明らかに小学生っぽい女の子までバッチリとメイクをしており、幼い顔立ちに不釣り合いな印象を受けた。

 だがこの街ではそれが普通なのだ。

 それが日常的な光景なのだ。

 だから浮いているのはそんな”少女達”ではなく”俺達”の方なのだ。

 こんな所に連れて来て申し訳ないと思いながら、俺は隣にいる橋坂奈々未を見やる。

「あれ......?」

 二人仲良く浮いていると思っていたが、制服である彼女はむしろこの街に馴染んでいるように見えた。

 馴染んでいるというよりかは溶け込んでいる。

 彼女の出自など知らないが、この街で生まれ育ったと言われても俺は恐らく何の疑いもなく信じるだろう。

 鵜呑みにするだろう。

 ニワトリの卵から雛が孵るのと同じ位自然な事。

 つまりこの場所に居ても全くおかしくない、そんな雰囲気を漂わせているのだ。

 ひょっとするとこれが女子高生の制服パワーというやつなのかもしれない。

「ズ、ズルイぞお前!!」

「???」

 完全な八つ当たりのいちゃもんだった。

 そもそもここに連れて来たのは俺なのだから。

 とは言え、いつまでも駅前で立ち止まっている訳にはいかない。

 さっきから何度も後ろから「邪魔だ馬鹿野郎」という気持ちの籠った舌打ち攻撃を食らっていたので、

「行こうか?」

 と彼女に一声掛けて俺は歩き出した。

 



 歩き始めてものの一分も経たない内に、

「......ん?」

 彼女を見失った。

「——え?——え?——嘘っ!?き、消えた!?」

 辺りを見回してみても影一つ見当たらない。

 まるで神隠しにでも遭ったかのように彼女の姿が掻き消えていた。

 下調べした目的の店に到着する前に俺の足はピタリと止まる。

 これだけの人混みなのだからはぐれるのも仕方のない事だが、とは言え最初に会った時のように俺の後ろをぴったり付いて来ているものだと思っていた。

 さすがはファッションモンスタータウン原宿、恐るべし。

 どうやら考えが甘かったらしい。

 原宿に対する認識も彼女に対する認識も。

 俺は首を左右に振りながら駆け足で彼女の捜索を開始した。

 しかし、あまりの人混みに走る事など出来ない。

 どこをどう歩いても目と鼻の先に人の壁が立ちはだかっているからだ。

 結局、周りに歩調を合わせて歩くしかない。

 遅々として進まない状況に俺だけがその場で足踏みをしているような気分になった。

「橋坂さーん!!」

 とりあえず名前を呼んでみたが、しかしすぐにそれが過ちである事に気付く。

(バカか、俺はっ!)

 無口な彼女が俺の呼び掛けに「ハーイ」と元気良く返事を返すとでも思ったのか?

 そうして探している内に俺の中に妙な胸騒ぎがしてきた。

 もしかしたら彼女はこのまま俺の前から消えていなくなるかもしれないという気がしてきたのだ。

 勿論、昨日今日会った女の子に入れ込んでいる訳ではない。

 ましてや惚れた訳でも。

 いつ居なくなるかは彼女の自由だ。

 それを引き止める事など俺には出来ないし、するつもりもない。

 ただ宿を貸し、貸されただけの関係。

 けれど、

 もう一回だけ、

 もう一回だけあの笑顔見たいと切に思った。

 フワリと柔らかく微笑む彼女を......

 あんないきなり襲うなんて真似しなければ、あの笑顔をもっと見れたかもしれない。

 彼女の中で俺という人間はいきなり頭突きをしてきた変な人だ。

 後悔先に立たず

 後悔というものは何時だって手遅れで、気付いた時には時は逸しているのだ。

 そう、後悔というものは——

「ん?」

 人混みの中、視界の端に彼女の姿が過った気がした。

 足を止め、振り返ってみる。

「んんん??」

 よく見てみるととても彼女とよく似た背格好だ。

 だが、いや、しかし......

 俺はにわかに信じられないという思いでもう一度その方角に目をこらす。

 うん、どこからどう見ても橋坂奈々未だ。

 なんと彼女はこの街の名物である行列の最後尾にポツリと一人で並んでいた。

「うそーーーーーん!!」

 俺はお笑いのコントのように盛大にずっこけた。

 神隠しのように消えたから必死になって探してみたら行列に並んでるとか、そりゃ力も抜けるだろうよ。

(てか俺、洋服買いに行こうって言わなかったっけ!?)

 彼女がそれに頷いたかどうかはさておき、確かにそう伝えた筈だ。

 俺は人混みを掻き分けながら彼女の方に近付く。

 その間も彼女は俺の方に気付く事無くただ一点をぼんやりと見詰めていた。

「——ちょっ!?なんで並んでるのっ!?」

 俺は彼女の肩を掴むと、幾分声を荒げてそう尋ねた。

 多少恩着せがましいかもしれないが、今日は彼女の為にここに来ているのだ。

 もし、これからも色んな所を転々とするならば困るだろうという配慮からだ。

 それをフラッと消えてクレープ屋に並ぶなど自由気ままにも程がある。

 彼女はゆったりとした動作で振り向くと、

「.............」

 無言のまま、ただジッと俺の目を見詰めてきた。

「うっ......」

 そんな目で見詰められると何も言えなくなる。

 顔が可愛いからという理由だけではなく、捨てられた子犬の様な目をしていたからだ。

 彼女はしばしそうして俺を見詰めた後、スッと左手を持ち上げ、ある一点を指差した。

 そして一言、

「あれ......」

 とだけ呟いた。

「......へ?」

 俺は何の事か分からず、思わず調子っぱずれな声を漏らしてしまった。

 彼女が真っすぐに指差す方向へと顔を向けると、そこには可愛らしい看板を掲げたクレープ屋があった。

「えっと......クレープ屋さん?」

「............」

 彼女は無言のままコクリと頷く。

「クレープが食べたいの?」

 またコクリと頷く。

「..........っはぁぁぁぁぁ、分かったよ......じゃあ俺も一緒に並ぶから......」

 何の事はない、彼女はクレープが食べたくて一人行列に並んでいたのだ。

 彼女がこうして自分の意志を示すのは珍しい事だ。

 出来れば尊重してあげたい。

 俺は盛大に溜め息を吐いて最後尾に並ぶ彼女の隣に同じ様にして並んだ。

 立てていた予定を出鼻から挫かれてしまった。

(とりあえず洋服は後回しだな.....)

 なんだか全身から力が抜けていく。

 呑気に並んでいる彼女を見ていると、必死に探していた自分が馬鹿みたいに思えてくるのだ。

「てか、食べたいなら食べたいって言ってくれればいいのに」

「............」

 普通にガン無視されたがそれはいつもの事。

 彼女は自分の気持ちや感情を上手く伝える事が出来ない。

 今回もまぁそういう事なのだろう。

 というかやりきれないのでそう思う事にする。

「クレープ、好きなんだ......?」

 また無視されるんだろうなぁと思いながらも尋ねてみる。

 無視される事を前提として話し掛けるのもなかなか辛いものがある。

 彼女は俺の方を振り向くと、またジッと目を見詰めた後、困ったように首を傾げた。

「そうでもないのかよっ!?」

 昨晩のマグロ丼の時のデジャヴでも見ているかのようだった。

 違う所と言えば俺が声に出してツッコミを入れた事ぐらいか?

「何故ここに並んだしっ!?」

「.............」

「ここは無視ですか!!」

 好きでもないのに食べたいとは一体どういう事なのだろうか?

 どういう心境でここに並んでいるのだろうか?

(これが女心というやつなのか!?)

 どうも女という生き物が、いや彼女という生き物がさっぱり理解出来ない。

 知れば知る程、巨大な迷路の中を目隠しして歩いているような気分になる。

 魔性の女とはこういう女の子の事を言うのだろうか?

 いや、何か違う気がする......

 仕事先にもそういう女性はいるが、追い掛けたくなるような女の子とはやっぱり何処かが違うのだ。

 打算がないというか、計算していない天然風というか。

 もしかしたら計算しているのかもしれないが、それを全く悟らせないのであればそれは天然と同じ事だろう。

 良く言えば天真爛漫、悪く言えば自己チューマイペース。

 いずれにしても俺が振り回されている事に何ら変わりはない。

 幾分落ち着いてきた俺は改めてクレープ屋とその周辺をグルリと見渡してみる。

 どうやら並んでいるのはほとんど女の子ばかりだ。

 みんな楽しげにお喋りしながら、目を輝かせて何を食べようかかといった事を夢中になって話している。

 道端の路上とは言え、ここは女の園、女の子の為の空間のように感じた。

 その中に俺は並んでいるのだ。

 なんだかくすぐったいような、いたたまれないようなそんな気分になるのは何故だろうか。

 女性側で例えるならば、一人でラーメン屋や牛丼屋に入る感覚とちょっと似ているかもしれない。

 クレープ屋など彼女が居なかったら決して並ぶ事は無かっただろう。

 傍から見れば俺達は一組のカップルのように見えるのだろうか?

 内実は全く異なるが、もしそう思われていたらと考えると胸の奥が少し熱くなった。

 遠くの方まで見てみると俺達と同じように男女のペアが並んでいた。

 腕を組んでいる所を見るとあれは正真正銘のカップルで間違いないようだ。

 彼氏の方は幾分面倒臭そうな顔をしていたが、彼女の方はとても楽しそうだ。 

 この”待っている時間が楽しい”のだと言わんばかりの弾ける笑顔。

 その笑顔を見て、「あぁ、そうか.....」と俺は行列に並ぶ人達の心理というものが何となく理解出来た気がした。

 これまで行列に並んでいる人達を見て、「わざわざ並んでまで見たり食べたりしたいものか?」と思っていた。

 それこそ空いてる時間帯に行けばいいじゃないかと。

 違うのだ。

 きっと好きな物や好きな場所、そこに向かうまでの道中や時間を含めて一つの楽しみであり喜びなのだ。

 ふと俺の頭の中に一つの事が閃く。

 ひょっとすると彼女は、橋坂奈々未はクレープが食べたくてここに並んだのではないのかもしれない。

 この”待っている時間”を楽しみたくて並んだのかもしれない——と。

 そう考えれば好きじゃないけど食べたいという彼女の行動にも合点がいく。

 そして、もしそうだとしたらあのカップルの女の子のような弾ける笑顔じゃないとしても、ちょっとだけ、ほんの少しだけでも微笑んでいるかもしれない。

 ならばチャンス到来だ。

 あの笑顔をもう一度見る事の出来るまたとないチャンス。

 俺は僅かな期待を胸に、彼女に気付かれないようそっと横顔を覗き見た。




















 無表情だった。















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