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【乃木坂妄想倶楽部】~美少女コレクター~ 第一話 買い手



 闇のオークション。

 その場所ではこの世のありとあらゆる物が売買される。

 そう、ありとあらゆる物が。

 宝石、美術品、骨董品、そして人の命さえも......

 金さえ積めばここで手に入らないものは無いとさえ言われている。

 今宵もまた、多くの権力者、財力者、有力者を集めた宴が開かれていた。

 闇のオークションの目玉は何と言っても美少女オークション。

 古今東西、世界中から集められた美少女達の祭典は、会場を最も昂揚させ、熱狂させる。

 中でもその日、最も注目が集まった目玉商品。

 それこそが白木石麻衣だった。

 彼女がその姿を現した瞬間、会場は息を飲み、しばしの静寂の後、

 爆発するかのように美少女狂いの亡者達が狂喜乱舞した。

 一斉に入札希望のコールが飛び交い、その金額は天井知らずに跳ね上がっていく。

 過去最高金額を叩き出したこのオークションに競り勝ったのは、日本を裏で牛耳っているとされる愚塁鷲男だった。

 彼は無類の美少女マニア。

 美少女コレクションと称して多くの少女達を、屋敷で家畜のように飼い慣らしている事でも有名な人物だった。

 鷲男は、怯え震える麻衣の肩を抱き、待たせてあるリムジンへと向かった。

 彼女を手に入れた事で満足した鷲男は、今日のオークションを早目に切り上げた。

 麻衣を連れて歩く鷲男に向けられる好奇と羨望の眼差し。

 それを心地良く感じながら会場を後にした。

 帰りの車中で鷲男は麻衣にこう告げた。

「今日から君は私の大切なコレクションだ。逃げ出そうなどと考えないように。もし、逃げれば君の家族はもちろん、親戚、友人に至るまで生死の保証は出来ない。自殺も同様だ。周りの人間に迷惑をかけたくなければ、素直に私の玩具となる事を誓いなさい。分かったね?」

 鷲男はそう言うと、麻衣のきめ細やかな白い頬をその手でザラリと撫でた。

 麻衣は小刻みに震えながら、小さくコクリと頷いた。




 身売り。

 今時そんなものが存在するなど、平和な世界で暮らしていた麻衣にはにわかには信じ難い話だった。

 父が株式で抱えた莫大な借金。

 それが全ての事の発端だった。

 本来であれば自己破産すれば済む、その程度の問題だった。

 しかし、借り入れ先が悪かった。

 銀行のみならず父親は闇金にまで手を出していた。

 その闇金を裏で操る人物がかなりの大物らしく、例え自己破産で借金から逃れたとしても、必ず一家を路頭に迷わせ、心中まで追い込む。

 それ程の力を持っていた。

 そんな途方に暮れる一家に舞い込んできた一報。

 それは麻衣の身売り話だった。

 麻衣が身売りする事を条件とし、全ての借金を帳消しにしてくれ、更には失業した父親の就職先まで斡旋するという破格の条件。

 一家は当初、それに猛反発を示した。

 一致団結し、アルバイトやパートで返済していこうと家族会議で決まった。

 だが、裏から手を回されたかのように、就職やアルバイトはことごとく不採用。

 ようやく採用されたかと思えば、理由も曖昧なまま即クビ。

 あっという間に八方塞がりとなった白木石家。

 そこで立ち上がったのが麻衣だった。

 自ら身売り話を決意し、自分が犠牲になる事で家族を救うと決めたのだ。

 麻衣の感覚ではキャバクラや風俗で働くのと大差無いものだと思っていた。

 もちろん、嫌な事には変わりないが、莫大な借金を返済するにはそれもやむなしと元々考えていたので

 この身売り話は渡りに船のように思えた。

 それがこんな人身売買のような非人道的なオークションに参加させられようとは......

 しかも、この男、愚塁鷲男に買われるなんて。

 会場で初めて鷲男を見た時、この男にだけは買われたくないと思った。

 理屈では説明出来ない本能的な恐怖を感じたからだ。

 だが、麻衣のそんな願いも空しく、結局この男が麻衣の買い手となった。

 圧倒的な資金力は他の追随を許さず、鷲男の釣り上げに付いていける者などいなかった。

 オークションが終わった時からずっと震えが止まらない。

 自分の運命が漆黒の暗闇へと向かっているような気がしていたからだ......





 麻衣には知る由もない事だが、父親の借金から麻衣の身売り話まで、全ては鷲男が仕組んだ事だった。

 全国に張り巡らしている情報網。

 そこに途轍もない美少女がいるとの噂を聞き付けた鷲男は、自ら動き、徹底した麻衣の身辺調査を行った。

 麻衣を一目で気に入った鷲男は、その処女性を確認すると、当時、株にのめり込んでいた父親を巧みに誘導し破滅に追いやった。

 パソコンをハッキングすれば彼が何を売買しているかなど一目瞭然で、莫大なお金を動かせる鷲男にとって株価の操作など造作も無い事だった。

 負けが込んで熱くなった所に差し出される鷲男の息のかかった闇金の魔の手。

 それらは全て、鷲男の描いたシナリオだった。

 直接麻衣を買えば安く済んだかもしれないが足のつく可能性を減らす為、闇のオークションを間に一枚噛ませる事で隠れ蓑とした。

 齢70を超えてなお、底知れぬ暗い欲望はとどまるところを知らない。

 目論見通り麻衣を手に入れた鷲男は隣で震える少女を眺め、愉悦の笑みを浮かべていた。




「これから麻衣様のお世話係をさせて頂く、鷲男様の第三秘書、細川で御座います。」

 屋敷に到着するなり、パリッとしたスーツに身を包んだ細川という女史に挨拶をされた。

 知的な雰囲気のする眼鏡を掛け、長い髪を後ろで綺麗に纏めている。

 目付きは鋭く、鋭利な刃物のような冷たい印象だった。

 きっと麻衣がここから逃げたいと泣きついても一蹴されるだろう。

 それ位の機械的な冷たさを感じさせる女性だった。

 簡素な挨拶を済ませ、細川に案内された部屋は、目も眩む程の豪奢な部屋だった。

「こちらが麻衣様の部屋になります」

 ここが一瞬、日本である事を忘れてしまう程の洋風の造り。

 煌びやかな装飾と品の良さそうな調度品がズラリと並ぶ一室。

 備え付けのベッドの角にはそれぞれ柱が立っており、純白のレースで仕切られていた。

 お姫様が住まうかのような豪華な造り。

 女の子であれば誰でも心躍るような室内は、しかし、麻衣には籠の中の鳥のイメージしか浮かばなかった。

 それに普通の中流家庭で育った麻衣には居心地悪い事この上ない。

「必要な物があればこちらで用意させて頂きます」

 馬鹿丁寧な口調でそう言う細川女史。

(むしろいらない物だらけなんですけど...)

 パッ見、落書きにしか思えない絵画、意図の全く汲み取れない美術品、使い方の分からない調度品。

 どれも今の麻衣にとっては必要の無い物だった。

「これから麻衣様には鷲男様好みの女性になって頂く為の調教を受けて頂きます」

 サラッととんでもない事を言ってのける。

 普通そうに見えても、やはり鷲男の息の掛かった人間だと感じさせる。

 その異常な世界に身を置いている事は間違いなかった。

「........調教って....どんな?」

 屋敷に着いてから一言も声を発しなかった麻衣がここでようやく口を開いた。

 調教を受けるのは自分なのだから気にならない訳が無い。

「それはこれから調教師が麻衣様の特性と資質を見抜いた上で施していくものなので、一概にこういうものだとは言えません」

 ですが、と付け加える。

「お覚悟だけはしておいた方がよろしいかと......」

 細川のその目には感情といったものを感じ取れなかった。

 淡々と仕事をこなす機械的口調。

 きっとこれまで幾人もの同じ境遇の少女達を見てきたのだろう。

 同じ様な問答を繰り返して慣れてしまった定型文のように感じた。

「後ほど食事を運ばせます。長旅でお疲れでしょうから、食事の後はお休みになって下さい。麻衣様の担当調教師は後日ご紹介致しますので」

 それだけ言うと丁寧に一礼し、細川は音も立てず部屋を後にした。

(調教師......)

 次から次に見せられる異常な世界に心が全く追い付かない。

 麻衣は部屋を見て回る事無く、ベッドにそのまま直行し腰を掛けた。

 ノリの利いたパリッしたシーツにふかふかの布団。

 シルクの肌触りがなんとも心地良く、横になってみると想像以上の快適さだった。

 心身共に疲れ果てた麻衣は食事を取る事なくそのまま深い眠りに付いた。




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