麻衣は、最初に細川がチョイスした純白のドレスを選んだ。
慣れないドレスの着用に手こずり、結局細川を呼んで手伝ってもらった。
「
麻衣様、とてもお似合いです」
ニコリともせず細川はそう告げる。
麻衣はその言葉に照れながらも鏡に映った自身のドレス姿に、
(馬子にも衣装だな...)と独りごちた。
身支度を整えた
麻衣はそのまま細川に案内され、屋敷の大広間へと向かう。
この場所は昨日屋敷に入ってくる時にも見た筈だったが、その時は不安と恐怖のあまり周りを見る余裕が全く無かった。
しかし、改めて見てみるとそれは圧巻の一言。
広い中央階段がドンと真ん中に配置されており、そこから両サイドに階段が分かれている。
手摺は精巧緻密な模様で形取られており、階段には胸のすくような真っ赤な絨毯が敷かれている。
それはさながら映画やドラマのセットのようだった。
麻衣自身もテレビの中でしか見た事がないものであった。
高い天井から吊り下がった巨大なシャンデリア。
金や銀で施された装飾。ギリシャ彫刻のような置物。
ピカピカに磨かれた大理石の床は、歩く度にヒールの音をカツーン、カツーンと心地良く響かせる。
金持ちの屋敷をそのまま表現したかのような大広間。
その大広間の真ん中に一人の男が立っていた。
細川はその男に近付くと、
「こちらが
麻衣様の担当調教師の
藤堂和也でございます」
右手を恭しく掲げ、そのように紹介した。
「初めまして、
麻衣様。調教師の
藤堂です。以後、お見知り置きを......」
そう行って細川同様、馬鹿丁寧に腰を折り頭を下げる。
「.............どうも」
何と答えてよいか分からない
麻衣はとりあえずそう返事した。
よろしくお願いしますと言うのも何だか変な話だと思ったからだ。
しかし、改めてよく見ると
その調教師は
麻衣が想像していたよりも若く、柔弱そうな男だった。
もっと強面のヤクザのような男、もしくは脂ぎった中年の小太りのような男を想像していた。
麻衣の視線に目敏く気付いた
藤堂は、
「思ってたのと違ったでしょう?」
そう言ってフフッと笑った。
確かにその通りだと麻衣は思った。
藤堂の顔は強面とは程遠く、青白でほっそりとしている。
その白さは病弱であるかの如く、不健康そうな青白さであった。
高級感漂うスーツに身を包みながらも、その体格は男性的なガッチリとしたものではなく、
ちゃんと食事を取っているのかと心配になる程の痩身であった。
しかし、よくよく見るときちんと食事や運動さえ取っていれば、男性アイドルとして通用しそうな程の美形でありスラリとした長身でもあった。
短く整えられた清潔感のある柔らかそうなクセっ毛は、某人気アイドルグループの一人を連想させる。
(確かそのアイドルの人、F4とか呼ばれる金持ちのボンボンを演じてたっけ?)
胸中でそう呟きながらも、自分の担当が清潔感のある男で良かったと内心少しホッとした。
そんな
麻衣の胸中を無視して細川が話し始める。
「昨日お話した通り、これより
麻衣様にはこの藤堂から、鷲男様に相応しいコレクションとなるべく調教を受けて頂きます。後の行動は
藤堂に従って下さい」
私はこれで、と頭を下げて細川はさっさと奥の通路へと消えていった。
いきなり男性と二人っきりにされた
麻衣は急に緊張してきた。
鷲男側の人間とはいえ、女性である細川が傍にいる事に随分安心していたようだ。
麻衣の緊張感をいち早く察知した藤堂は、
「まぁそう緊張なさらずに」
と気さくな調子で声を掛けてきた。
そうは言われてもこれから得体のしれない調教を施されるというのだから、緊張するなという方が無理がある。
「いきなりハードな調教をする訳ではありません。物事には順序がありますので......」
それに、と
藤堂は続ける。
「何と言っても
麻衣様は鷲男様が過去最高の落札額で手に入れられた『至高の美少女』ですから。万が一にも傷をつける訳には参りません」
そう言って目を細め優し気にフフッと笑った。
こんな状況じゃなければ至高の美少女と言われて飛び上がって喜んでいた所だが、さすがにそんな場合ではないだろう。
とは言え悪い気はしなかった。
だが、
麻衣は自身のその美少女さゆえ、鷲男に狙われたという事までは頭が回らない。
全ての元凶は鷲男であるという事に。
そんな
麻衣の胸中をジットリ睨め付けるように観察していた
藤堂が、ふいにクルリと踵を返した。
麻衣に背中を見せ話し始める。
「今日は見学といった所です。これからご自身が何をすればいいのか、また何をさせられるのか全く分からないと思いますので、それを客観的に把握する為に見学にいきます」
こちらにどうぞ、と洒落た動作で手招きをして
藤堂は大広間の豪奢な階段を昇っていく。
麻衣はドレスのスカートを両手で持ち、恐る恐る
藤堂に付いて行く。
階段を昇る際、
藤堂が紳士よろしく左手を差し出し麻衣を支えた。
麻衣は何だか自分が本当に貴族かお姫様にでもなったかのような錯覚に陥った。
しかし、そんな浮ついた気持ちは、長い廊下を一歩一歩進む度に消えてゆき、恐怖と不安の暗雲が徐々に心に立ちこめていく。
見学とは一体何を見学するというのか?
麻衣は自分が地獄の底に連れて行かれているかのような気持ちになった。
「鷲男様には話を通してありますので」
足を止める事なく首だけ振り向いた
藤堂がそう言った。
何の事を言っているのか
麻衣にはちんぷんかんぷんだったが、それはすぐに理解する事となる。
藤堂が立ち止まった場所は屋敷内でも一際大きく、豪奢な扉の前だった。
藤堂はその扉をコンコンと二回程、強めに叩いた後、
「鷲男様、
麻衣様をお連れしました」
とだけ言った。
鷲男の名前が出た瞬間、
麻衣はそこが鷲男の部屋だという事が分かった。
しばしの沈黙の後、「入れ」という鷲男の野太い声が扉の奥から聞こえた。
藤堂は失礼しますと恭しい声で返事をすると、その重々しく仰々しい扉に手を掛け、ゆっくりと開いていった。
扉が開き一刻の後、飛び込んできたその映像は、
麻衣の心を凍り付かせるには充分な光景であった。
応援されると興奮、いや喜びます。
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