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ホワイトリング 【後編】




その日の夜は珍しく私の方から哲生を誘い、

やたらと軋むベッドで激しく交わった。

なかなか満足しない私に、ハッスルし過ぎた哲生は今、
          いびき
グースカと鼾を掻いて寝ている。

哲生の硬質な髪に手を伸ばし、サワサワと撫でてみる。

私とは違うゴワゴワでクセっ毛だらけの髪質。

本人はそれを気にしているが、私は可愛いと思う。

プードルみたいで。

起きてる時に触ると怒るので、寝てる時しか触れないのだ。

しばらく哲生の髪を堪能した後、私は静かにベッドを降りた。

空腹感を感じたので朝食でも作ろうと思ったのだ。

私には少々サイズの合わない哲生のトレーナーを勝手に拝借し、

キッチンへと向かう。そこそこ下まで隠れるので丁度良い。

換気扇を回し、フライパンにオリーブオイルを引いて強火で温め、

その間に冷蔵庫から使いかけの食材を取り出し、

フライパンが温まった頃を見計らってハム、卵の順に落としていく。

食欲を刺激するハムと卵の焼ける香ばしい匂い。

程よく焼けた所で水を差して、蓋を閉じる。

これで綺麗な目玉焼きが出来る筈だ。

後はサラダでも添えればそれで充分。

狭いこのアパートじゃ匂いや音は一瞬で広がっていく。

それに反応したのか、哲生がムニャムニャと寝ぼけ眼で体を起こした。

「———ごめん、起こした?」

「ん〜ん......はにゃ.....はにゃ......」

ワシャワシャと頭を掻きながら認識出来ない言葉を呟く。

まだちょっと寝ボケているようだ。

「朝ご飯作ってるけど——食べる?」

「ん〜....いや、いい...」

予想通りの返事。

普段から哲生が朝食を取る事は少ない。

食欲が無いという単純な理由ではあるが、出来れば取って欲しいと思う。

『朝は大事だからっ』と言って無理矢理食べさせてもいいが、

そこまでやると何だか母親じみていて気が引けるのだ。

「ん〜......」

寝ボケたまま、哲生がおもむろにカーテンを引き、外を眺めた。

その途端、

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

と奇声を上げて、飛び掛かる様にして窓ガラスに取り付いた。

「めっちゃ雪積もってんじゃん!!」

やたらキラキラした瞳でこちらを振り返りそう言った。

さっきまで寝ボケていたとは思えない程のハイテンション。

そんな哲生の上がったテンションとは裏腹に私のテンションはだだ下がり。

(子供かよ...)

てか雪が積もってハシャグなんて本当に犬のようだ。

「なぁなぁ、ちょっと外出て散歩しようぜっ!」

「何でだよ.....」

普段全然家から出ないクセに何故こんな時だけ。

「だって、———雪積もってんだぜ!?」

いや、それ答えになってないから。

「やだよ...寒いし、滑るし...」

私の意見を完全に無視して、哲生はさっさと着替え始めた。

こういう時、ほんと自分勝手だな。

目を輝かせてニコニコと支度をしている。

何だかんだと文句を言いながら、

それが可愛いと思ってしまった時点で私の負けだ。

ヤレヤレと溜め息を一つ。

「.....あっ!」

哲生に気を取られて料理していた事を忘れていた。

恐る恐る蓋を開けると、

私のハム入り目玉焼きは見事に黒焦げになっていた。



今日は二人共に仕事はお休み。

示し合わせた訳ではないのでたまたまだ。

しかし、こうして朝っぱらから哲生と並んで歩くのも久しぶりだ。

ちょっとしたデート気分ではあるが、哲生は私の事などそっちのけで

積もった雪を蹴り飛ばしながらあっちにフラフラ、こっちにフラフラ。

そんな哲生を見守る私はさながら母親のようだ。

いや、犬っぽいから飼い主か?

しばらく遊び回っていた哲生は、他より多く積もっている箇所を見付けると、

一目散に走っていきその場にしゃがみこんだ。

ゆっくり歩いて追い付いた私は背後から哲生に声を掛けた。

「.....何してんの?」

「ん〜、ちょっと...」

哲生は背中を向けたまま生返事を返すと、

積もった雪の中に手を突っ込みゴソゴソと何かしている。

もしかして雪だるまでも作ってるのかもしれない。

何にしても雪遊びを楽しんでる時点で、

(いくつになっても男は子供だねぇ...)

そう思わざるえない。

丸くなった哲生の背中を見ながら、暇になった私は持っていた煙草に火を点けた。

もくもくと上がっていく白い煙。

白い息と混ざっていつもより沢山の煙を吐いてる気になる。

しばらくして哲生が立ち上がり、右手に何かを隠し持ったままこちらに歩いてきた。

(ん?なんだ?雪玉か?

もしかしてここで雪合戦でも始めるつもり?上等だ!やってやんよ!!)

昔、ヤンチャしてた頃の血が騒ぐ。

年を取ったとは言え、哲生ごときに遅れを取る私ではない。

そうして身構える私を華麗にスルーして、

哲生は私の左手をそっと掴んだ。

軽く上に持ち上げ、指に何かを嵌める。

ヒヤリとした感触。

それは雪で出来た指輪だった。

「.......何コレ?」

状況の飲み込めない私は素直に哲生に尋ねる。

「何って.....指輪だよ」

照れ臭そうにそう言うと、くるりと後ろを振り向いた。

顔が赤くなってるのを見られたくないのだろう。

耳まで赤くなってるからバレバレなんだが。

「......冷たいんだけど」

雪で出来てるのだから当然だ。

「嫌なら外せよっ」

ちょっとだけふてくされたような声。

「....別に.......嫌じゃない」

長い事付き合っているが、

哲生から指輪を貰ったのはこれが初めてだ。

例え雪で作られたものだとしても素直に嬉しかった。

哲生は再びしゃがんで積もった雪の中に手を突っ込むと、

今度は本当に雪玉を作り始めた。

ギュッギュッと小さく固めると、それを遠くの方に投げる。

白い玉が放物線を描き、やがて地面に落ちて弾けた。

(案外肩強いんだな....)

私ならとてもではないがあんなに遠くまで飛ばせない。

哲生の意外な男らしさ。これもまた初めて見るものだ。

「なぁ———由香....」

背中を向けたまま哲生が私に話し掛けてくる。

「結婚しようぜ」

二つ目の雪玉を放りながら、気軽な調子でそう言った。

「は?」

一瞬何を言われたのかよく分からなかった。

ほんの少し時間を置いてじんわりと”その言葉”が体に染み込んできた。

しかし、コンビニに行くんじゃないんだからそんな気軽に言われても。

「は?じゃないよ。だからっ!結婚しようって言ってんのっ!」

二度目の言葉はじんわりとではなく、ハッキリと心の真ん中に突き刺さった。

そうして哲生は三つ目の雪玉を放る。

急に何を言っているのだ。

そもそもコイツは何で遠投しながらプロポーズしてんだ?

照れ隠しなのか?

(つうかプロポーズするならちゃんとした指輪買えよ...)

そう思い手を上げて薬指に嵌められたホワイトリングを太陽にかざしてみた。

白くて綺麗な雪の結晶。

あのドレスみたいに真っ白だ。

これが結婚指輪だとしても別に悪くはないが...

家に帰る前に溶けてしまいそうだ。

その時、透明な雪の結晶の奥でキラリと何かが光った。

「....えっ?」

驚いて身じろぎした拍子に雪の指輪がホロリと解け、

中から本物の指輪が姿を現した。

薬指に嵌められたシルバーのリング。

それは計ったかのように私の指にピッタリだった。

指のサイズの話などした事はない。

一体何時何処でどうやって...

混乱する私。

哲生は私が指輪に気付いた事を確認すると、再び話し始めた。

「俺さ、来月からホールの主任になるだろ?収入もある程度安定すると思うんだ。

だから由香と結婚して、子供が出来たとしても二人共ちゃんと養っていけるよ」

なんだよその話...

そんな話、今まで一度もした事なかっただろ...

由香は仕事続けてもいいし、辞めたくなったら辞めてもいい。

どっちにしても俺がちゃんと守るからさ」

こっちを見ながら哲生はニカッと笑った。

そうしてまた雪玉を作る為にしゃがみこんだ。

私の中に込み上がってくる感情。

それはただ嬉しいとか愛しいというだけの感情ではなく、

もっと色々と複雑に入り混じった...

一人で考えて、一人で決めて.....何故それを私と共有しない?

(ほんと自分勝手だなっ)

私は哲生に走って近付くと、丸まったその背中に、

”ドロップキック”をお見舞いした。

あまりの不意打ちに哲生は頭から雪の中に突っ込んだ。

「———ってぇ!!何すんだよっ!?」

振り返った哲生は全身雪だらけ。

頭の上にチョコンと乗った雪が可愛らしい。

哲生のクセに生意気っ!!」

哲生を見下ろしながらビシリと指を差す。

そして満面の笑みを浮かべ、私は哲生の胸の中にダイヴした。



※読み終わりに流すとイイ感じです。多分...(笑)




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